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業界誌はどう読む
京都タクシー運賃改定申請

業界誌はどう読む 京都タクシー運賃改定申請

「MK新聞」ではどう報道されるのか。
低額運賃路線を率いてきた京都・エムケイが改定率10%となる運賃改定申請。
その真意はどこにあるのか?


   エムケイの青木信明社長は1月21日、本紙の消費増税への対応に関する質問に答えた。青木社長は「値上げするとしたら現在の京都の運賃の下限がひとつの選択肢」としながら、「基本は景気動向や売り上げ状況、他社の動向を見ながら、独自に考えていく。来年4月の消費増税から逆算して、ことしの後半が判断のリミットとなる。そのころには、景気や売り上げの数字は出てきている」とした。
   政府自民・公明両党は24日に決めた平成25年度税制改正大綱で、来年4月の消費税8%上げを明確にするとともに、軽減税率導入を再来年10月の消費税10%引き上げ時とした。
   消費税転嫁の円滑かつ厳格な適用を求め、独禁法の特例措置も検討するとしている。下限割れ運賃で京都市域15%のシェアをもつエムケイの動向が注目される。

   これは、週刊「トラポルト」1月20日号に掲載された青木信明社長のインタビュー記事冒頭リード文だ。昨年、経営悪化の脱却策として明星自動車が初乗り距離を1.6kmに短縮した運賃改定申請を提出したが、業界内のコンセンサスを得られず申請が続かなかった。
   そのため、3カ月後に近畿運輸局は却下。
   しかし、小型車上限運賃の距離制加算運賃は385mまでごとに80円。この運賃水準は大阪で最も安い運賃とされるワンコインタクシー(中型車)の距離制加算運賃225mまでごと50円よりも安い。ワンコインタクシーの事後加算は、80円刻みに換算すると360mまでごと。京都の小型車上限よりも25m分高い。

   前述のように、参院選で国民の信を得たアベノミクスは来年4月に消費増税を断行するのは確実視されている。

   運賃については、来年4月の消費増税がターゲットゾーンに入っており、どちらにしてもそのタイミングで値上げするのが、ひとつの選択肢です。
   ですから、その前に値上げをしてしまって、3%増税分を吸収する。それは吸収するぐらいの値上げ幅でないといけません。
   その辺をどうするのか、ということと、他社さんの運賃との格差はどうなのか、ということを見ていかなければなりません。
社内的には、これからの3カ月から半年の様子を見ながら、売り上げや景気動向を見ていくということになります。
   今のところ、4~6月のデータをみて消費増税を実施するかどうかを決めるというアベノミクスは奏効し、消費税率は上がる水準まで行くと見ています。
現在の京都の小型車の下限運賃は、初乗り2km620円ですね。ここを一応の値上げのターゲットにしています。
   他社さんが消費増税分を値上げするというなら、現在の下限に上げていくという考えはあります。

   青木社長は、インタビューで運賃値上げの可能性について、このように続けている。
   現行運賃の小型車下限である初乗り2km620円を「一応の」値上げターゲットにしていた。
   そして、3~4月、京都業界は初乗り距離を1.7kmに下げて運賃改定申請を始める。小型車で初乗り590円が平均的な申請内容だ。改定率は10%を超えている。

   過去から規制緩和の実験場と揶揄されてきた京都業界。
   その名の由来は17年前にさかのぼり、エムケイの「運賃ジャック」に端を発する。

   それ以降、エムケイは他の事業者との運賃格差を初乗り運賃ベースで8~10%幅に保ってきた。事後加算を含めると12%程度の格差がある。
   言うまでもなく、エムケイは、この運賃格差と格段のサービスの良さで、他の事業者の追随を許さず今日の地位を築き上げた。このような“エムケイ運賃”の存在が、規制緩和の弾力的運用が行われた1990年代後半から適用されたゾーン運賃再下限を選択する事業者を出現させ、運賃改定を許さなくさせていた。

   その結果、今日のように自動認可運賃の枠を下回る運賃を適用する事業者が保有する車両数が、京都市域交通圏全体の31%を占めるようになる。かつてエムケイが「運賃ジャック」をほしいままにしていた当時の車両数比は4%余り。エムケイ自身の車両数も規制緩和と自社グループの合併により倍増したが、その倍余りの車両が低額運賃に走った。

   上記のようなことから、今回の京都市域交通圏の運賃改定は、ハナから「実現不可能」というシニカルな雰囲気が漂っていた。

   これに対し、エムケイが加盟する社団法人・京都府タクシー協会幹部は「秘策はある」と反論。しかし、その秘策とは何か。

   多くの協会会員事業者は、非加盟事業者も含め、上限運賃適用事業者がすべて申請しても、近畿運輸局が審査を始める基準である7割に届かないという現実の前に絶望的になっていた。
   17年ぶりの運賃改定を実現させるには、エムケイを始め1900両の低額運賃事業者のうち、何社かに申請してもらわねばならない。それは神業的な手法を必要とした。
   5月の連休明け、低迷する申請率の底上げを図り、他の思案している事業者の決断を迫るという目論見から、ヤサカグループ全社が運賃改定に踏み切る。が、しかし、その後の申請は続かない。その後、ジワリと申請が続くが、申請期限となる6月末時点で申請率は57%。

   そこで“ウルトラC”が試みられる。

   何と、先陣を切って申請した明星自動車以下、会長会社の帝産京都自動車、副会長会社の比叡山観光タクシーの3社が取り下げてしまった。
   正確に言うと、「一旦取り下げ」だ。
   実は、京タ協の牧村史朗会長はエムケイに対し、かねてから運賃改定申請に同調するよう説得を続けてきた。申請期限が迫る中、ウソか誠か、青木社長が「申請受付期間は6カ月あると勘違いしていた」として、エムケイが申請するまでの時間稼ぎを図ったのである。

   この「秘策」には近畿運輸局も同意。
   そうして、再度設定された申請期限日である7月9日の夕刻、エムケイは他の未申請事業者6社とともに京都運輸支局に運賃改定申請書を提出した。

   7月9日は、午後3時過ぎまでは申請率57%を上回らなかったが、京都運輸支局の業務終了時間(午後5時15分)が近づく午後4時過ぎから残る6社の担当者が申請書類を持って手続きを始めた。体調を崩し、入院していた牧村史朗会長も当日は退院し、京運支局に隣接する京都自動車会見の一室にある京都府タクシー会館事務室に安居早苗副会長、兼元秀和副会長らとともに審査開始要件となる申請率が7割を上回る瞬間を見守った。

   エムケイの申請内容は初乗り距離を1.7kmに短縮し、特定大型・初乗り600円、距離加算230mまでごと80円、大型・初乗り560円、距離加算337mまでごと80円、中型・初乗り560円、距離加算337mまでごと80円、小型・初乗り550円、距離加算384mまでごと80円。

   現行上限運賃との比較では、初乗り距離を2kmにした場合、特定大型700円、大型・中型660円、小型650円と大型で割安になるほかは、全車種で10円高く、距離加算でも特定大型2m、中型2m、小型1m、それぞれ短くなっており、総体で上限運賃を上回っているといえる。(週刊「トラポルト」7月22日号より)
   近畿運輸局は7月16日、京都市域交通圏から申請されていた運賃改定について公示した。
   申請内容は、概ね初乗り距離を現在の2kmから1.7kmに短縮(小型550円~600円)しているが、京都相互タクシーグループ2社は現在の2km(小型700円)のまま申請している。下限割れ運賃の事業者からは、大手のエムケイが申請した。

   また、京タ協は6月22日、正副会長会議に続き、今回未申請の会員事業者との懇談会を開催する。申請率は79.6%。公示事業者はつぎの通り。
   ▽伏見タクシー、さくらタクシー、キャビック、洛東タクシー、ホテルハイヤー、みとちゃんタクシー、京都相互タクシー、京都相互タクシー自動車、エコロ21、京聯自動車、愛都交通、彌榮自動車、山城ヤサカ交通、洛陽交運、第二ヤサカ交通、銀鈴タクシー、ヤサカ交通、新ヤサカ交通、京洛タクシー、京和タクシー、新京和タクシー、日本交通、加茂タクシー、洛南タクシー、京都バスタクシー、関西タクシー、嵐山タクシー、八光タクシー、新大文字交通、夏山、光交通、入江総合企画、青葉交通、比叡山観光タクシー、帝産京都自動車、明星自動車、プラス、京都第一交通、宇治第一交通、エムケイ、ケイテイ、近畿交通、近畿自動車、未来都(週刊「トラポルト」7月22日号より)

   協会幹部が社長を務める3社が「一旦取り下げ」た前代未聞の京都市域交通圏・運賃改定申請は、果たして上記のように公示された。

   京タ協は間髪入れずに7月22日、運賃改定申請をしなかった「未申請事業者」10数社を呼び、懇談会を開いた。 その内容については緘口令がしかれていると見られ、出席者らは多くを語らない。それどころか、出席した事業者名も正確に明かさないほどである。

   エムケイの青木社長の本音は、冒頭に掲載した週刊「トラポルト」1月20日号のインタビュー内容に秘められていると思われてならない。
   ならば、何故、エムケイは今回、申請に踏み切った、否、応じたのだろうか。

   「運賃ジャック」の記述部分にもあるように、エムケイの本音は、今も運賃格差と格段のサービスで他の追随を許さないところ、すなわち、どう独創体制を築き、固めるかにあるのだろう。
   タクシー新法が制定され、公定幅運賃が設定された場合にはなかば強制的に収れんさせられていくというのは分かるが、自主的に10%の値上げ申請したのはどうしてか。
   エムケイ幹部は「一切関係ない」と否定するが、近畿産業信用組合の青木定雄会長、青木義明副会長が会長と副会長を引きずり降ろされたことと何らかの関係があるのだろうか。それとも、この半年間で当初予想した以上の赤字が出たためなのか?
真相は、運賃改定公示後に開かれた懇談会の真の目的に隠れている、との指摘がある。
エムケイの幹部は「京タ協幹部の努力で申請率が69%まで行き、あと一息で7割に到達するが、そのためにはどうしても低額運賃事業者の協力が必要と言うのなら分かるが、その努力もなくわれわれに協力を求めるのはいかがなものか」と憤っていたことがある。
とりあえずは京タ協幹部のお願いを聞きいれたが、「努力」がない場合は取り消すこともありえることを示唆している、と言える。

   今後も懇談会は継続して開かれると言うが、その裏には爆弾が潜んでいるといううがっ た見方もできるようだ。

   京都で行われようとしている17年ぶりの運賃改定は、来年に持ち越すとされる公示日まで目が離せない。
と言うのも、申請期限となっていた7月9日の5日前に大阪地裁で京都、大阪、神戸のエムケイグループ3社とワンコインタクシー協会傘下8社が最高乗務距離規制取消を求めた裁判の判決が下され、原告側が実質勝訴。国と近運局はこの判決に対し控訴しないことを決めたからである。(続編は近日公表)

バス・タクシーの専門情報誌traport(編集・発行人 山田政幸氏)より
2013年7月

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